まえがき | | | | | | 『研究社新英和大辞典』は 1927 年の初版以来今日まで, 歴史の重みに加え, 先達の英語学者および各界の専門家の努力と汗の結晶として, 我が国を代表する最も学問的な英和辞典として高い評価を受けてきた. しかしながら第 5 版刊行以来 20 年が経過し, この間情報伝達の手段としての英語の重要性は社会のあらゆる分野において飛躍的に増大しつづけた. 我々はこのような情勢をふまえて改訂の作業を進めてきたが, 数々の編集上の困難を乗り越え, 初版刊行以来まさに 4 分の 3 世紀を経た本年, ようやく第 6 版を世に送ることができたのは大きな喜びである. | | | 「Shakespeare から IT まで」を編集のモットーに, 新版は本辞典の利用者を狭く英語研究者および教師と想定せず, 現在国の内外において実際に英語に接している人々の要求にできるだけ応えることを目標とした. そのため, 定評のある旧版を基礎として, 百科事典的な情報をいっそう強化し, IT 分野・社会・政治・経済・科学・医療・福祉・環境から芸術・文化・スポーツ・ファッション・料理など各方面の用語・略語・商標なども多数収録した. さらに英語が実質的には世界の共通語となっている現状を考慮して, 英米以外の英語圏の多様化した語彙や表現はもとより, 非英語圏の固有名なども重視した. しかし一方において, 欽定訳聖書や Shakespeare などの語彙の充実も怠らなかった. また各項目の語義・用例・成句・句動詞・発音・語源などの記述もいっそう厳密になった. 加えて, 最近 20 年間の社会状況の変化を考慮し, 訳語・用例において不適切となった記述内容を改めた. この結果, 総収録項目は 26 万を超え, 質量ともに旧版を遥かに上回ることとなった. 以下, 各分野において特に重視した点を列挙する. | | | | | | (1) 旧版の刊行以降に英語の語彙に加わった新語・新語義を大幅に採り入れたのはもちろんであるが, 最近急速に発展したコーパス言語学 (corpus linguistics) の資料を活用して, 重要語を中心として語義などを原則として頻度順に配列し, 検索の効率化をはかった. 例文はインフォーマントが徹底的に吟味し, また特に頻出語については文中における主語・目的語の別, 修飾語と被修飾語との関係, 成句・慣用的表現などでの副詞・前置詞・接続詞・不定詞句の位置, それらに対応する訳語の部分の表示などの対応をいっそう明確にした. また生きた英語を理解する上で欠かせない成句や句動詞に特に留意し, 従来の記述を洗い直して新しい意味を追加し, アクセントも示した. | | | (2) 「日英比較」欄を新設し, 英語と日本語との意味や用法のずれ, 最近特に頻繁に使われるカタカナ語とその基となった英語との間の意味や文化的な背景の相違などを, 約 800 語について解説した. これはしばしば, 日本人と英語圏の人々との間での誤解の原因となるものなので, 一般の利用者には特に役立つものと信じる. | | | (3) 語法を他の見出し語との関連において詳しく説明するために, 新たに「語法」欄を設け, 囲み記事の形で見やすく配置した. また「★」を用いて適宜語法や風物的背景となる情報などを提供した. これは英語の理解力・表現力を増すための実際的・学習的な配慮でもある. | | | (4) 同様な配慮から, 同じような意味をもちながら微妙なニュアンスの相違がある, いわゆる類義語約 5 千語について「類義語」欄を新設し, 意味や用法上の相違を詳述した. | | | (5) 最近 20 年の間に英米の発音にはかなりの変化が認められ, もはや旧版の発音表記では対応できなくなった. そのため新版では英米の最新の資料を参考にして発音表記の全面的な改訂に踏み切った. その際高名な音声学者であるロンドン大学教授 John C. Wells 氏およびカンザス大学教授 James W. Hartman 氏には, 単なる校閲ではなく, 多数の項目において執筆に協力していただいた. また, 多くの言語の研究者にご協力いただき, 英語圏以外の固有名の発音も可能な限り記載することができた. | | | (6) ことばの真の理解の上で語源的な知識は不可欠であるが, 本辞典の「語源」欄は従来他の辞書の追従を許さぬものであった. 新版ではさらに語源的・語史的情報を精密にし, 語の初出年代の表示や, ゲルマン基語および印欧基語の推定形の記述およびそれらの相互参照をいっそう充実させた. また成句や英米の固有名のほか, 主要な国名についてその由来や語源的情報を記したものも多い. 特に不明な語源に関しては, Oxford English Dictionary (第 2 版)の編集に携わられた T. F. Hoad 氏に協力をお願いした. | | | (7) 数多くの百科的項目が追加されたが, これらは各界の専門家のお力添えの賜物である. また, 第 5 版が基になっているのは言うまでもなく, ご尽力いただいた方々のお名前を別に記して心よりお礼申し上げる. | | | (8) 第 5 版の挿絵は精密・正確であるとの評価を受けてきたが, この度全体との関連を示す総合図を中心に, 図解形式の挿絵を新しく採用した. | | | | | | 以上のような新機軸を打ち出すために, 執筆者側と編集者側とは長期にわたって緊密な連絡をとりつつ作業を進めてきた. 関係者一同全力を尽くしたつもりではあるが, なお遺漏・誤記・誤植など不備な点が残るのを恐れる. これについては利用者の方々のご教示・ご叱正を頂ければ幸である. | | | | | | 2002 年 3 月 | | | 竹林 滋 | | | (編者代表) |
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