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1. 英語辞典と語源
1.1  英語辞典に多少の語源説明を加えることは, 最近の一般的傾向のようである. 英国の Concise Oxford Dictionary や米国に数多い college dictionary にはかなり詳しい語源記述があり, Pocket Oxford DictionaryConcise Heritage Dictionary のような小型辞典にも簡単ながら語源欄がついている. 英和辞典の場合でも, 中型以上のもので何らかの形で語源に言及しないものは, むしろまれであろう.
 語の慣用法は直接語源によって左右されるものではないが, 一方新しい意味・用法でも遡っていくと原義ないし古義に関係づけられる場合が少なくない. ことに古くから用いられ続けてきた語の場合には, そのことばの年輪を明らかに知るためにも語史的・語源的知識が不可欠である. 英語辞典の歴史をみると, 語源が最初に取り上げられたのは, 1656 年出版の Thomas Blount, Glossographia であり, 以後 Edward Phillips, The New World of English Words (1658), Elisha Coles, An English Dictionary (1676), Stephen Skinner (1671), Gazophylacium Anglicanum (1689), 編者不詳の Glossographia Anglica Nova (1707) などいずれも語源解を標榜している. しかし一般英語辞典における語源欄の位置を確立したのは, 語源記述を英語辞典に不可欠の要素と考えた Nathan Bailey の A Universal Etymological English Dictionary (1721) および Dictionarium Britannicum (1730) であった. 後者の再版 (1736) こそ, かの Dr. Johnson の苦心になる, 最初の本格的国語大辞典 A Dictionary of the English Language (1755) 2 巻の底本として用いられたものである. Bailey や Johnson の語源記述は William Somner (1659), Skinner (1671), Franciscus Junius (1677) によるところ大きく, 独自の寄与は少ないといわれる.
 Johnson の辞典でも語源記述は一般に甚だ簡略で, Dog [dogghe, Dutch.], Cat [katz, Teuton. chat, Fr.], Do [don, Sax. doen, Dut.] という程度であり, その限りでは大きな破綻を示していない. しかし, 少し立ち入った記述になると, Have [haban, Gothick; habban, Saxon; hebben, Dutch; avoir, French; avere, Ital.] のように音韻論的には対応しないロマンス語形と結び付けたり (5.3 参照), GOD [IPA-joghod, Saxon, which likewise signifies good. The same word passes in both senses with only accidental variations through all the Teutonick dialects.] のように, 表面的な形態上の類似から god を good と関係づける安易な語源説に甘んじているような例が見られる. このような語源に対する後進性は, 1828 年出版の Noah Webster 編 An American Dictionary of the English Language (現在の Webster 大辞典の元版) においても著しい.
 
1.2  一般に, 18 世紀以前の語源研究はなお恣意的な面が少なくなく, 科学的厳密性を欠くものであったことは, 18 世紀末の語源辞典, 例えば G. W. Lemon, English Etymology (1783) にも歴然としている. Lemon は foot をギリシャ語の ψοιτ外字ω ‘歩く'からの派生とし, garden をギリシャ語 γ外字ροsigma, ラテン語 gyrus ‘塀や垣根などで囲んだ土地'に関係づけている. これらもまた古典語と英語との間に見られる, 後述する音韻対応を無視したもので, 「語源学においては母音は何ら関与せず, 子音もごく僅かしか関与しない」という, フランスの文学者 Voltaire の有名な語源学批判を甘受すべきものである.
 
 



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