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2. 印欧語族
2.1  しかし, 科学的な語源研究は上記 Lemon の語源辞典出版から僅か 3 年後, 英国の東洋学者 Sir William Jones が司法官としてインドに在任中発表した論文をもって緒につく. それは, インドの最古層の言語であるサンスクリットとヨーロッパの古典語であるギリシャ語・ラテン語との間の著しい言語特徴の類似性を指摘し, これらの言語が同一の母語(すなわち印欧基語)から派生したものと推定する画期的な研究であった. 以後多くの比較言語学者の研究や古代語の発見によって, 今日では印欧基語とこれから派生した諸言語を含む印欧語族 (Indo-European family) の系譜がかなり明らかになっている.
 
2.2  ここにいう印欧基語 (Proto-Indo-European) とは, 紀元前 4 千年頃まではほぼ単一の言語グループをなしていたと推定される言語である. 印欧基語を用いていた原始印欧人の故郷 (homeland) がどこかについては, 19 世紀以来ゲルマン(北ドイツ)説, メソポタミア周辺説, 南東ヨーロッパ説などが次々に唱えられ甲論乙駁の状態だが, 言語学や考古学・文化人類学の研究成果も含め, またクルガン文化 (Kurgan culture) との関係も考慮して, 最後の南東ヨーロッパ説とくに黒海からカスピ海の北にひろがる草原地帯が, 比較的有力視されている. この印欧基語から今日までに分化発達した諸言語は, 西はアイスランド, アイルランド, 東はトルケスタン, インドの地域に跨り, これに今日英語の用いられるオーストラリアや北米大陸などを加えれば, ほとんど地球を取り巻く広大な地域に及んでいる. こうして, 世界最大の言語人口をもつ印欧語族は, 数多い語族の中でも, 文化史的に最も重要な語族の一つといってよいであろう. 次に印欧語族の分類とこれに属する主要な言語名をあげておく. ([ ] に包まれたものは古代語や消滅した言語を示す.)
 
インド語派 (Indic)
[Sanskrit, Prakrit]—Hindi, Bengali, Urdu
イラン語派 (Iranian)
[Old Persian]—Persian, Tajik
     Kurdish, Pashto
トカラ語(派) [Tocharian]
アナトリア語派 (Anatolian)
[Hittite]
[Luwian]
[Lycian]
アルメニア語(派) (Armenian)
ギリシャ語(派) (Greek)
アルバニア語(派) (Albanian)
イリュリア語(派) [Illyrian]
イタリック語派 (Italic)
[Latin]—Italian, French, Spanish, Portuguese, Rumanian
[Oscan, Umbrian]
ケルト語派 (Cetlic)
[Goidelic]—Gaelic, Manx
[Brythonic]—Welsh, Breton
ゲルマン語派 (Germanic) ⇒2.3
バルト語派 (Baltic)
[Old Prussian]
     Lithuanian, Latvian
スラヴ語派 (Slavic)
Slovene, Serbo-Croatian, Bulgarian
Czech, Slovak, Polish
Russian, Ukranian
 
2.3  英語の属するゲルマン語派の分類については諸説があるが, 一つの分類法で示すと次のようになる.
 
東ゲルマン語群 (East Germanic)
[Gothic]
北ゲルマン語群 (North Germanic)
[Old Norse]—Icelandic, Norwegian, Swedish, Danish
北海ゲルマン語群 (North Sea Germanic)
[Old Frisian]—Frisian
[Old English] [Middle English]—English
[Old Frankish]—Dutch, Flemish
[Old Saxon]—Low German
内陸ゲルマン語群 (Inland Germanic)
[Old High German]—German
 
 



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