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8. 造語法
以上に取り上げた単語は, 主に OE あるいはゲルマン語以前に遡る本来語か, 英語の発達の過程で借入された外来語である. しかし現在の膨大な英語の語彙の中には, 英語の内部で造語されたものが多数存在するので, 最後に英語の造語法について説明を加えておく.
最も一般的な造語法は, 既存の語に接辞 (affix) を付けて造る派生 (derivation) と既存の 2 語以上の結合, または連結形 (combining form) を用いた合成 (compounding) とである.
folk・sy [《1852》 ← folks ((pl.) ← folk)+-y4]
life・style [1929]
bio・sociology [《1901》 ← bio-+sociology]
本辞典では, 近代期以後の造語で構成要素の自明な合成語 (例 bookcase, world-famous) や多産的な接辞 (-al1, -an1, -ed, -er1, -ful1,2, -ic1, -ical, -ing1,2, -ish, -ism, -ist, -ive, -ize, -less, -like, -ly1, -ness, -or1, -ous, non-, post-, pre-, re-1,2, semi-, super-, un-1,2 など) や前後から自明な連結形による造語の場合, 語源記述を省略したことが多い. しかし, これらの造語法によって, 現在も毎日のように新語が造られているのである. また派生の特殊な例として, いわゆる品詞の転換 (functional shift) がある. たとえば Xerox (n.) → (v.) などは, 接辞の加わらないゼロ派生 (zero derivation) と考えることができる. この品詞の転換は, 古期英語やラテン語のような屈折言語には起こらないが, 現代英語のような無屈折に近い分析言語にはひろく見られる現象である. すでに近代初期に, Shakespeare は大胆にこれを活用している: It beggar'd all description. 筆舌に尽くし難かった (Ant 2. 2. 198) / I'll devil-porter it no further. 地獄の門番はもうごめんだ (Mac 2. 3. 17): ⇒spaniel, uncle. 今日においては, 「英語では, 動詞にそのままの形で転用できないような名詞はない」といわれるほど, 高い生産性をもっている.
これらと並んで最近の新語形成に著しい造語法として省略 (abbreviation) がある. 省略は, いわば合成とは逆の方法で, 種々の型がある.
 
a) 短縮 (clipping): 語の一部を切り取った省略形で, どの部分を残すかにより, 次の 3 種に分かれる. 1) 語の頭部を残したもの: exam (← examination); fan (← fanatic). 2) 語の尾部を残したもの: bus (← omnibus); phone (← telephone). 3) 語の中間部を残したもの: flu(e) (← influenza); fridge, frig (← refrigerator), Liz (← Elizabeth).
 
b) 次に省略の一種で Lewis Carroll, Through the Looking Glass (1871) で有名となり, 今日も盛んに用いられているのが混成 (blending) と呼ばれる造語法である. これは 2 語の一部を重ねて新しい 1 語を造るもので, brunch [《1896》 《混成》 ← br(eakfast)+(l)unch] や smog [《1905》 《混成》 ← sm(oke)+(f)og] など周知の例であろう. これは短縮と共に, 生活のテンポ・リズムが急速に早まりつつある現代社会の要請に応えるものだが, 現代に限った造語法ではなく, 数は少ないが, 古典語にも存在する. Shakespeare にも rebuse ‘悪口雑言する' (← rebuke+abuse) などの例があるが一般化しなかったらしい.
 
c) また, 既存の語に接辞を付けて派生語を造るのと逆に, ある語の一見接尾辞と見える部分を切除して本来は存在しなかった語を造る造語法があり, これは逆成 (back-formation) と呼ばれる. baby-sit ‘(親の留守の間)子守りをする' [《1947》 《逆成》 ← baby-sitter] も baby-sitter 《1937》 から sitter ← sit+-er1 の類推で造語されたものである. televise (← television), contracept (← contraception) など多数の新語を生み出している. 古い例としては difficult (← difficulty) などがあり, 一説では beg も beggar からの逆成としている. また, pea1 は pease (< OE pise) の語末の /z/ を複数語尾と誤解して生じた, 一種の逆成と見ることができる. これは通俗語源による変形の一例であるが, 類似の通俗語源的現象として, 語あるいは語群が非語源的に分析された結果生ずる異分析 (metanalysis) がある: ME (an) ekename→ModE (a) nickname: ⇒newt, apron.
 
d) 省略のもう一つの型として, 合成語または語群の各頭文字を並べて 1 語を造る方法がある. これを initialism といい, このようにして造られた語を頭字語 (acronym; initial word) と呼ぶ. この種の省略語は b.c., a.d. のように古くから行われ, 現在も英米の放送局名 BBC, NBC や辞典の OED, あるいは NGO のように各種の名称の略語として広く用いられている. これらはふつう各頭文字をアルファベット読みにしているが, ときには emcee (M.C.), okay (O.K.) のように発音綴りにすることもある. 最近の傾向としては, アルファベット読みでなく 1 語として棒読みできるようなものが多いこと (NATO, UNESCO, radar), P.E.N. ‘ペンクラブ'のように既存の語と語形が一致するものが好まれること (‘pelican' crossing, AIDS, WASP) などが指摘できよう.

(寺澤芳雄)



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