初版まえがき | | | 近年, 国の内外における英語辞典編集の進歩は著しく, 特に学習辞典の進歩には目をみはるものがある. しかしながら, 社会人・実務家の立場からすると, わが国の英語辞典の現状は改善の余地を多く残していると言わざるをえない. このような状況にかんがみ, 本辞典はわが国の社会一般の読者の要望にこたえるべく企画された. 先に研究社は『現代英和辞典』を刊行してこのような読者の要望にこたえようとしたのであるが, 本辞典はまさに『現代英和辞典』の基本方針を継承発展させたものである. これを具体的に特色として述べれば次のようになるであろう. | | | まず全般的な方針として, 読者が未知の語に出会って辞書を引いたとき, その語がそこになければ読者は大いに失望するにちがいないが, そのような失望をできるだけ少なくするよう最大限の努力をした. すなわち, 与えられたスペースにできるかぎり多くの語を入れるようにした結果, 本見出し, 追込み見出しおよび成句を合わせて約 26 万項目を収めることができた. これはこの種の比較的小型の辞典としては最高ではないかと思う. 一定のスペース内で語数をふやせば 1 語の記述にあてることのできるスペースは必然的に小さくなるが, 本辞典は, 読むための情報に的をしぼり, 書くためあるいは話すために必要な情報と学習辞典的要素はある程度割愛して収録語数をふやすようにした. したがって, 学習辞典に比較すれば例文などはかなり少ないかもしれない. しかしながら, 本辞典は単に収録語数が多いというにとどまらず, その種類にも幾つかの特色があると自負している. このことは, 本辞典の語彙は類書のそれに比較して格段に百科事典的であると言い換えることもできる. これを具体的に列挙すれば次のようになるであろう. | | | 1. 熟語・成句を網羅的に収録したので熟語・成句辞典としても十分利用できる. | | | 2. 口語・俗語・卑語も大胆に取り入れた結果, 俗語辞典をも兼ねるようになった. ただここで断わっておきたいのは, 口語・俗語・卑語を多数収録したのは単なる興味本位によるものではないということである. われわれにとって英語は外国語なればこその措置である. 一般の国語辞典であればかなりの部分がなくてもいいものだろうと思う. 読者の賢明な利用を期待する. | | | 3. 固有名を大幅に取り入れた. 人名・地名に加えて, 歴史的事件, 各種団体の名称, さらには架空の人名・地名もできるかぎり収めた. 従来, 「ことば」の辞典は固有名を敬遠しがちであった. しかしながら, 実践的な読書にあっては固有名は実に重要な役割を果たすのであって読書人はだれもこれを否定できないはずである. 本辞典ではそれゆえ固有名のために多くの紙面をさいた. | | | 4. 現代における科学技術の進歩は文字どおり日進月歩である. 科学技術が進歩すればそれにみあったことばが必然的に生まれる. われわれはこの分野にもあえてドンキホーテ的に踏み込んで科学技術用語を貪欲に取り入れた. | | | 5. 科学技術以外の分野についてもできるかぎり多くの最新の語を収録した. その結果, 新語辞典としても十分使用にたえるものになったと思う. | | | 6. 固有名と関連して実務家にとって重要なものに略語があるが, 本辞典に収めた略語の数と範囲は独立した小型の略語辞典のそれに比して遜色のないものである. | | | 7. 語義の理解を助ける目的で数多くの語と句に語源あるいは句源を付けたが, 小型辞典としては最も詳しいものと言えよう. | | | 8. 擬音語を多く取り入れたことも本辞典の特色である. これらの擬音語の多くは英米の漫画から採集したものである. | | | 以上のように, 本辞典は主として英語を読むためのものとしてその領域を比較的狭く限定しながら, 同時にある意味では森羅万象を対象とするものになった. この目標は達成することはおろか, それに近づくことさえもわれわれだけの力ではおぼつかない. 本辞典をよりよいものにするために各分野の専門家のご批判とご援助をお願いしたい. 専門用語の訳語・内容説明は言うにおよばず, 用法についてもご教示くださるよう切にお願い申し上げる. | | | ここで役割分担について一言述べておく. 上述のとおり, 本辞典には多くの百科事典的項目が含まれているが, これらの項目は主としてリーダーズ英和辞典編集部が調査・執筆にあたった. 語源は木村建夫氏が担当し, 付録の年表は英国史の専門家である東京外国語大学教授松村赳氏にお願いした. | | | 英和辞典の名に値する他のすべての英和辞典と同じように, 本辞典も先人の仕事に負うところ大である. 中でも, 本辞典が模範とした『現代英和辞典』の監修者故岩崎民平先生に負うところは絶大であり, 炯眼な読者は岩崎先生の足跡をいたるところに見いだすであろう. 不肖の弟子はただただ先生のお名前を汚すことを惧れる. | | | 本辞典の編集は 1973 年に始まり, 完成までに 11 年を費やした. この間, 共同編集・執筆者のうち山下雅巳教授は 1977 年 11 月, 横山一郎教授は昨年 3 月, 幽明境を異にしてしまわれた. ここにつつしんで辞典の完成をご報告してお二人のご冥福をお祈り申し上げる. | | | 最後に, この冒険的な企画に最初から深い理解を示され, 長い年月にわたって強く支持してくださった研究社社長植田虎雄氏, 非才の監修者を終始もりたててくださった共同編集・執筆者ならびにリーダーズ英和辞典編集部のみなさんに心からお礼を申し上げる. また縁の下の力持ちとして資料調査, 整版, 校正, 制作にあたられた多くの方々のお名前を巻末に記して長年のご苦労に深く感謝申し上げる. | | | | | | 1984 年 5 月 | | | 松田 徳一郎 | | | | | | |
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