新和英大辞典第5版 メニュー 


第 5 版まえがき
 本辞典は 29 年前, 1974年 に刊行された第 4 版「新和英大辞典」を大幅に改訂・拡充したものであります. この辞典の前身であり初版でもある「武信和英大辞典」が 1918(大正 7) 年, 創業 10 年余の研究社によって日本の英学会に送り出されてより 85 年, その間多くのすぐれた先達の血のにじむような努力と, それを支える無数の方々の労苦によって改訂・増補を重ね, 類書の追随を許さぬ成長を遂げてまいりました. 初版の編纂者として「大和英」の礎石を置かれた武信由太郎氏は申すに及ばず, 同氏の監修の下で第 2 版の編集を担当した木村幹, 増田綱, 野尻正英(抱影), 相良佐, 鈴木芳松の諸氏, 日本語および日本文学に関する深い造詣を提げて第 2 版の作成に参加し, その内容に飛躍的な改善, 充実をもたらした当時のイギリス大使館参事官 George B. Sansom 氏, 戦争による長い空白期間の後の大改訂という難事業を引き受けて第 3 版の編集主幹を務めた勝俣銓吉郎氏, 第 2 版以来つねに「大和英」の改訂作業の中心に在り, さらに引き続き主幹として第 4 版の作成を指揮した増田綱氏, 同氏のもとで第4版の監修に当たった羽柴正市, 小沢準作, 山田和男の諸氏, また長年にわたって蒐集した 20 万枚の資料カードを惜しみなく提供して第 4 版作成の実質的中軸を務めた市川繁治郎氏, 等々は, 「大和英」の脈々たる生生発展の歩みを振り返るとき決してその功労を忘れることのできない方々であります.
 第 5 版を目指しての改訂作業は長い準備期間を経て 1996 年, 本格的に開始されましたが, その完成への道は改訂規模の大きさもあって決して坦々たるものではありませんでした. それに加えて, 改訂方針が煮詰まりいよいよ作業を軌道に乗せようという最も重要な時期にさしかかった 1997 年 12 月, それまで改訂作業の支柱であった日南田一男氏が編集会議の席上で病に倒れ急逝されるという悲劇に見舞われました. これは我々を途方に暮れさせる深刻な打撃でありましたが, 残された者が力を合わせて陣容を立て直し, 爾来 5 年余を経た今日, 作業の無事終了を氏の御霊に報告できることは関係者一同にとってこの上ない喜びであり, ここに改めて心より氏のご冥福をお祈り申し上げます.
 今回の改訂は本辞典の歴史の中で最も規模の大きいもので, その特色は大きくまとめて次の 7 点であります.
1. 総収録項目数は約 48 万(見出し語 13 万+複合語 10 万+用例 25 万). 旧版の 29 万(見出し語約 8 万+合成語・句 16 万+文例 5 万)に比べ約 65% 増となりました. 情報量のこの飛躍的な増加に対応するため紙面を拡大し, 旧版の 2 段組みから 3 段組みに改めました.
2. 多数の日本語教育の専門家が改訂作業の初期の段階から本格的に参加し, 現在は国語辞典に収録されていないが実際には用いられていていずれ定着するであろうと思われる日本語の用例, および現代語ではないが日本人の基礎的教養として知っておくべき古い語法などをも幅広く採り入れることにより, かなりの水準の「日本語表現用例集」ともいうべきものとなりました.
3. 現代社会のすべての分野に見られる急速な進歩と激しい変化を反映してつぎつぎに生まれてくる新語, 時事用語, カタカナ語, IT 関連語, 世相を反映するはやり言葉まで幅広く採録しました.
4. 日本語の専門家, 日本語に堪能な実務翻訳家を含む英米人執筆者, および現在英語教育に携わっている日本人執筆者の三者が絶えず意見を交換することによって, 日本語の微妙なニュアンスを出来うるかぎり正確に英語に移し換えるよう努めました. 作業手順としては, 日本語の専門家によって採録された日本語用例の英訳を英米人執筆者のみで行い, それを日本人執筆者が元の日本語と見くらべて点検し, 必要な修正を英米人執筆者に求める, という方式をとることによって生硬な日本語と英語らしくない英語の排除を図りました.
5. 旧版の「ローマ字見出し」方式を「かな見出し」方式に切り替え, さらに複合語は太字にしてアルファベット順から五十音順に変更したものを用例群の最後尾に配置するなど, 求める英語表現への到達に要する時間の短縮に努めました.
6. 旧版では巻末にまとめて収載してあった付録(世界の地名, 人名, 機関・団体名, 文学・美術作品名, クラシックの楽曲名)を本文中に組み込むことによって検索を容易にし, かつその収録範囲を旧版に比べて大幅に拡大しました. また, ポピュラー音楽・映画・戯曲のタイトルなども新たに収録しました.
7. 利用者の便を考えて各種の図表・図解を多数本文中に組み込み, さらに日本国憲法全文, 日本史年表, 世界史年表などを和英対照の形で巻末に収録しました.
 以上に列挙した第 5 版の特色を実現するには編者以外に各方面の専門家・協力者の方々の暖かいご援助が不可欠であったことは言うまでもありません.
 日本語面での情報の拡大・充実に関しては国立国語研究所の石井久雄氏(現・同志社大学)に懇切なご指導をいただき, またその方面での執筆者の人選その他については東京大学の鈴木泰氏にも大変お世話になりました. また, 東京理科大学の海保房夫, 砂金信義, 西谷潔, 和田浩志の諸氏にはそれぞれ薬学, 医学, 化学, 植物学の専門用語に関する記述の校閲をお願いしました. 中国語表記に関しては社団法人・海外鉄道技術協力協会の周敏西氏の校閲をいただくことができました. 経済関係の用語については執筆陣の一人でもある David Spengler 氏にご協力をいただきました. Benjamin Barrett, Zachary Braverman, P.A.H. Edwards の諸氏には最終段階において英語表現の適否に関し貴重な示唆をいただきました. 目白大学の井上清氏は時事的な英語表現の用例を数多く提供してくださり, 翻訳家の熊崎雄二郎氏からは改訂作業の期間を通じて継続的に有意義な情報をいただくことができました. 第 4 版の執筆者でもある故大村喜吉氏からは多数の貴重な用例カードを頂戴しました. 以上の他にも多くの方々から各分野の専門語に関してさまざまなご教示をいただき, 内外多数の文献, 参考書を利用させていただきました. またそれぞれの理由, ご都合により途中で改訂作業から離れることになった高橋正夫, 須田淳一, 松浦恵津子の諸氏にもここに改めてお礼を申しあげます.
 終始この難事業の調整・進行の役割を務めてくださった編集部の皆様, 特に逸見一好, 松原悟, 佐々木則子の諸氏, さらに友清理士, 黒澤孝一, 白崎政男, 西山広記の諸氏に編者一同心からの謝意を表します.
 「研究社・新和英大辞典」はわが国で出版されている最大の和英辞典としてこれまで内外の多くの研究者, 実務家に愛用され, 大きな信頼を得てまいりました. 世紀を劃する今回の大改訂により質・量ともに飛躍的な進歩を遂げ, 輝かしい伝統をさらに一歩進め得たと編者一同は自負しておりますが “To err is human.” は真理であります. さらなる前進と向上のため, 是非とも利用者の皆さまからの厳しい苦言, 不備のご指摘を関係者一同心よりお願い申しあげます.

  2003 年 4 月
        編者





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