まえがき |  |  | |  |  | 百科事典はすべての知識を一つに包括する目的をもっている. 確かに, 人間の能力には限界があるから, 文字通りあらゆるものを包含することはできない. だが 「百科事典」 という言葉と 「カトリック」 という言葉にはある種, 共通するものがある. 「カトリック」 の意味は 「普遍的」 ということであるが, 平たく言えば, すべてを含み, どこでも, いつでも通用するという意味である. すなわち, 人類のそれぞれの文化が生み出した, 人間性を高め, 人間的価値の増進に貢献するものを積極的に肯定し, 他の信条をもつ人々と協力し, 共に完成へと進むことを意味する. したがってそれは, 一つのイデオロギー, 一つの教派, あるいは一つの宗教にとらわれることのない立場である. つまり 「カトリック」 とは多様な知的文化を全面的に肯定しつつ, そのなかに一体性をみようとする姿勢を指すのである. |  |  | 21 世紀がまもなく訪れようとしている. それは人類の歴史における大きな節目である. 人々はこれまで, ややもすると百年単位の世紀だけが時代ごとの節目の単位であると考え, 一千年紀について思いをいたすことがなかった. しかし 20 世紀が終わろうとしている今, 一千年紀のことが忽然と人人の記憶によみがえったのである. さまざまな偶然が重なって 『新カトリック大事典』 はこの節目のとき, 21 世紀の展望を開くようにして刊行が開始されることになったが, これは編集者の立場からは実に摂理的なことと言わざるをえない. |  |  | カトリック教会は過去二千年の歴史を人類とともに歩み, その文化史の風景を描いてきた. その信仰の展開, 信心・霊性, 聖人と大きな役割を果たした人々, 主な事件などをたどれば, カトリック教会の歴史的遺産と叡智が人類共通のものであることがわかるだろう. しかし, これらは決して我々が過去を振り返るためにあるのではない. いかに激しい変化を体験しようと, これまでの知識の蓄積と歴史の重みがなければ, 21 世紀の未来を切り開くための展望もありえないのである. 知識の蓄積は百科事典という枠組みに整理されてはいるが, 決して死んだもの, 過去のものではない. 知識は命である. この命を無視して人類の未来はない. |  |  | 『新カトリック大事典』 は, 新たな企画によって新しい時代に対応するために項目を立て, 執筆者を選び, 編纂したものである. かつて第 2 次世界大戦直前から戦後にかけて 『カトリック大辞典』 が編纂・発行されたが, 本事典はその改訂版ではなく, 独自の企画によるものであることは, 本事典の頁をめくられればすぐにお気づきいただけるであろう. 第 2 ヴァティカン公会議はカトリック教会にとって, 現代世界に自らを開き, その本来の姿を取り戻すための刷新の一大盛事であり, 公会議終了直後の十年ほどの間, カトリック信者の間に巨大な熱気とエネルギーを巻き起こし, 諸教会の人々を驚かせ, 喜ばせもしたが, 今やそのことは過去の記憶となりつつある. 本事典は新しい世紀が迫りつつあるときに, 第三の一千年紀への道標として刷新の精神と成果を伝えようとするものである. |  |  | キリスト教初代教会の思想家にとって彼らを取り囲む, 優れた文化と知識をどのように自分たちの信仰に結びつけるのかは大きな問題であり, チャレンジであった. 彼らはそれを見事に成し遂げ, 遺産として我々に残してくれた. しかし同様の問題はつねに新たなチャレンジとして我々の前に出現する. 実際, 学術, 文化, 芸術における最近の進歩はどのように大きな枠組みであろうと, およそ完全に包含することはできないように思われる. キリスト教関係の分野においても学問の多様化・専門化・細分化が進み, 知識が増大しつつある. しかし, キリスト教関連の知識全体も, それを取り巻く知識の世界の一部にすぎない. 一見すると無関係にみえる二つの領域も, 人間の創造的営みという点では一つであるはずである. さまざまな制約はあるが, 本事典が不完全ながらも 「カトリック」 の事典であるといえるのは, まさにこの確信を具体化しようとする試みだからである. その点で他の百科事典にはない特色をもっているといえよう. |  |  | 本事典編纂の準備委員会は 1977 年 11 月に最初の会合をもった. 編纂委員会が正式に発足したのは 2 年後の 1979 年である. 編纂委員長のペトロ・ネメシェギ師は, 1991 年まで困難な編纂作業に携わられた. 今日, 第 1 巻を世に送り出すことができるのは, 遠くにしか日の光がみえなかった時期に, 長期にわたって涙ぐましい努力を続けられた前任者の蓄積があったからである. また, 執筆者をはじめとする多くの協力者, 資金面で援助してくださったアムステルダムの財団 (Stichting Benevolentia, Amsterdam), さらに出版を快諾された研究社, そして大学設立母体の上智学院のおかげで編纂作業を続けることができた. ここに心から感謝の意を表明したい. |  |  | 編纂作業に膨大な時間と手間がかかるため, 早い時期に原稿を寄せられた執筆者には, 校正の段階での補筆・修正を心ならずも極力抑えていただかなくてはならなかった. より良い事典を作るためにと努力を惜しまれなかった多くの執筆者の熱意に改めて敬意を表するとともに, 関係者すべてが無事に全巻完結の日を迎えることができるよう祈ってやまない. |  |  | |  |  | 1996 年 3 月 |  |  | |  |  | 学校法人 上智学院 『新カトリック大事典』 編纂委員会 |  |  | 委員長 高柳 俊一 |  |  | |  |  | |  |  | |
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